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プロフィール

塩入志津子

Author:塩入志津子
編集者・駅弁研究家
JTBガイドブック、旅、情報版など各種延べ800冊の制作編集に携わる。
1987年から2011年まで24年6ヵ月にわたり『JTB時刻表』巻頭グラビアページ「駅弁細見」を連載。北海道から沖縄まで、190社の調製元現場を取材、撮影、執筆。
賞味した駅弁は約1700食。
著書に『旬の駅弁名鑑800』(講談社)がある。

東京ガス主催「全国高校生駅弁チャンピオン大会」(テレビ東京系列)では、3年連続審査員を務める。ほか週刊誌などの雑誌執筆、セミナー講師、講演、TVなど。

ブログの文章トップで掲載の写真は、塩入が撮影。

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入舞(いりまい)

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免疫学者の多田富雄さんと臨床心理学者河合隼雄さんの対談(河合隼雄著『「老いる」とはどういうことか』講談社+α文庫)の中に、世阿弥が老いの「入舞」というとてもきれいな言葉を使っている、という多田さんの話がある。

「舞楽などで舞人が舞い終わって舞台から降りて引き揚げるときに、もう一度舞台に戻って名残を惜しむかのようにひと舞い、舞ってから引き揚げる。それを「入舞」と言うのだそうです。
年をとってからもうひとつ創造的なことをして、それを「入舞」とするというのは素晴らしいことですね」
と、能の脚本も書かれている、多田さんはいう。

さらに、続けて、
「世阿弥によれば経験を積むことを「功」と言うんだそうです。功を積んで老人になるんだけれども、その功に安住するとまったく進展がない。それを
「住功」といって嫌うなりと入舞の話の前に書いています。
経験を積んでもそれに安住しないで常に創造的なことを求め続け、その上で最後のひと舞をして引き揚げなさいということを言っているんだろうと思うんです」

これに対して、河合さんは、
「結局お年寄りがなんで嫌われるかというと、功に安住するからですね。昔あれをやったとか、すぐ言いだすから」と、なかなか手厳しい。

自宅のアパートでもそんな現象がある。
定年後多額の年金受給で悠々自適暮しの男性が多い。同じ棟に住んでいるのでまったく見ず知らずではない。エレベーターに乗り合わせて、「こんにちは」と挨拶しても黙っているか、無言で頭を20度くらい下げるだけ。口がないのかなあ、とあまりいい気分ではない。過去に大会社で部下から頭を下げられていても、現在はちがう。
過去が捨てきれていないのは、比較的、男性に多いようだ。これも世阿弥のいう「住功」のマイナス現象ではないか。

過去の「功」に安住するな、を基本理念として、素晴らしい成果を挙げているのが、アメリカ「マサチューセッツ工科大学のMITメディアラボ研究所」である。
理念として「過去の成功を捨てないと新しいものができない。固まった考えを壊し、異質の考えが繋がることで化学反応をおこし、新しいものを造っていこう。ピンチのときこそ攻めの姿勢を」と1985年に設立された。
現4代目所長は、2011年に日本人の伊藤譲一氏が就任。研究グループの大部分は人間とコンピューターの協調をテーマにしている、という。発展途上国の技術開発も目的の一つで、100ドルパソコンなども開発。経済基盤は、企業から年間1500万円の寄付により運営、ただし、企業は一切、干渉なしで、研究成果が企業と一致すれば、無料で使用可能。という明快ですがすがしい研究所である。人間とコンピューターに大いなる未来を抱かせてくれる、と思いませんか。

 今から約600年前、1400年代、室町時代に生きた世阿弥は、「自作の能を自身が演じて自己の理想とする美を舞台上に現出し、その体験に基づく芸論をも残したのが世阿弥である。演者と作者と理論家とを一身に兼ねたわけで、世界の文芸史上にも稀な天才」(世界大百科事典:平凡社)である世阿弥の人間観察は、21世紀にも生きている。

河合さんも多田さんも故人になられた。

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